「創造的に勝ち筋を作る」
AI時代に求められる広報の価値

Special Interview

昨今、耳にする「人工知能(AI)が人間の仕事を奪う」という話。これが広報の分野だとどうだろう。多岐にわたる広報業務ではあるが、求められているものが“情報”であれば、AIにも勝ち目があるだろう。キーワードから抽出する情報提示はAIの得意とするところだ。
では、新たなブランディングや価値創造といった、今はまだないものをこれから作る仕事だと……、ここは間違いなく人間の領域だ。

AI時代においても必要とされる広報の仕事。「いまない価値を創造する」、この領域を追求するディアメディア・味岡倫歩に、これからの広報が注力すべきポイントについて聞いた。

ディアメディア株式会社
味岡倫歩

2001年から05年まで株式会社リクルートで広告営業を経験、2006年から株式会社富士山マガジンサービスにてウェブマーケティング・広報業務を担当。2012年に独立、2017年にディアメディア株式会社を設立。企業の広報部門コンサルティングや未経験広報担当者の育成、独自性を活かす企業ブランディングの支援、個人向けにもブランディングサポート等を行う。

企業が自ら発信できるようになったことで、
広報担当者の負荷は増大

広報業界に10年ほどいる味岡氏は、「広報は誤解されている職業」だと言う。かつての「広報職」は、大企業中心の職種。メディアを通じての情報発信が主だったため、いかにメディアと付き合い報道してもらうかが重要な職業だった。しかし広報職の仕事内容は、この10年で大きく変わったという。

味岡
マーケティング・広報・広告の領域の垣根が低くなり、どんどん混ざってきている印象があります。大きな要因は、情報発信のデジタル化により企業から発信できるツールが膨大に増えたこと。消費者に直接伝えることができる時代になった結果、ツールと同時に対応箇所も増え『なにを発信するか』『どこで発信するか』の検討が複雑化しています。ブランディング目的の攻めの姿勢とリスク管理面の守りの姿勢の両面でも考えなくてはいけないので、広報担当者の業務が広範囲になっています。

プレスリリースにおいてもデジタル化は多大な影響を及ぼした。メディア1社ずつ、FAXや郵送でプレスリリースを送る時代は終わり、今やPR TIMESなどの配信サービスを利用すれば、何百社へ一斉に情報・価値が配信できる。

味岡
むしろ、メディアが情報を後追いしている感覚もあります。インターネット上で話題になったことをメディアが後から取り上げる。ひと昔前と情報の流れが逆転してきていますね。

サービス開始前からの広報コンサルが成功に導く

広報業務の多様化により、広報業務を全てフリーランサーや複業のPRパーソンに外注するという企業も増えた。そんな業界変化の中でディアメディアが得意とするのは、広報戦略を作るコンサルティングだ。味岡氏は8年ほど前から、未経験広報担当者の「社外先輩」として伴走し、1人広報(チームではなく企業に広報担当が1人の状態)でも自走できる状態にまで育ててきた。実績の半数はスタートアップ企業の広報支援。実はサービス開始よりもさらに2~3ヶ月前から広報体制を構築することで、成功することが多いのだという。

味岡
サービス開始時は一番話題を作りやすい時なんです。そのタイミングで適切に話題になるためには、開始前から戦略を立てる必要があります。弊社は、会社やサービスの独自性を輝かせるための手法・体制・やるべきことを見立てることから始めます。事前に戦略を描くことで、サービス開始時でも日経新聞やWBS(ワールドビジネスサテライト)の取材も狙えます。スタートのタイミングでそのような事実を作ることができれば、営業もしやすく事業も好循環になりやすい。逆に、サービスが始まってしまった後だと既出の情報なのでメディアにも持って行きにくく、社内のバイアスも整えるのに時間がかかってしまうことが多いんです。

会社やサービスの独自性が、自分たちには当たり前すぎて見えなくなっている企業には、その差別化要素や時流に絡めた価値を提案していくことも多い。企業や経営陣、働く人の本当の価値を言語化していく。これこそが味岡氏が目指す、AIとの差別化でもある。

味岡
サービスや会社が意図していることは何か。それはすなわちビジョンに繋がります。これをAIが予測することはできても、ドンピシャで出すのは難しいのでは。ビジョンを見出し、言語化するにはその企業や創業者の背景や意図する想いまで汲み取る必要があります。そこは人間同士だからできることであり、意識していることです。

柔軟な発想力で、時代の変化に対応していく

AIの発達が加速する10年後、人間の仕事はどうなっているのだろうか。これまでも変化の多い情報発信のデジタル化と共に仕事の変化を実感してきた味岡氏は、「予想しても意味がない」とバッサリ。将来を杞憂するよりも、柔軟に変化することを好む。

味岡
変化を素早くキャッチし、対応できるようにしておくことこそ重要です。例えばPR TIMESというプレスリリース配信サービスは今、ある意味でメディア化してきています。それを“プレスリリース本来の役割ではない”と眉をひそめる人もいますが、現実に起きている以上、なぜメディア化したのか、今後どう変化していくのかを分析して想像すべきです。柔軟な発想で時代に対応すれば、広報の可能性をさらに広げていけます。創造的に勝ち筋を作っていくことが、ゆくゆくは人間が広報を担う理由になっていくでしょう。

「成功から逃げた」リクルートの営業時代

味岡氏はリクルートで広告営業、富士山マガジンサービスにてウェブマーケ・広報を経験したのち、2017年にディアメディア株式会社を起業。一見、営業・マーケティング・広報・起業とキャリアの変化があるように見えるが、味岡氏自身の中では「繋がっている」という。

味岡
全部コミュニケーションの仕事だと捉えているんです。営業はお客さんと1対1、マーケティングは1対マスに。広報はメディアを通して伝える仕事。届ける相手や距離・内容は違っても本質は変わっていないと思っています。

起業や転職者を応援する風土のあるリクルート。しかし味岡氏が辞めたのは起業や転職を志した前向きな理由ではない。成功体験が多かった故に、「逃げ出した」のだという。

味岡
リクルートには営業アシスタントとして入社したのち、営業職になりました。アシスタントから昇格する人材は当時珍しかった。営業になった後も月間目標から年間目標まで全て数字を達成し、最後にはMVPを受賞。順調すぎたからこそ、いつか“外すこと”が怖くなってしまった。失敗を恐れるようになったんです。

退職後1年間はアフィリエイトのブログを書きながら気ままに過ごしていたという。富士山マガジンサービスではメールマーケティングやSEOなどデジタルマーケティング全般を担当。広告予算が少ない中で、コストをかけずに売上を上げるために試行錯誤していた。そんなときに着目したのが、スタートアップ界隈で流行し始めていた広義の意味での「広報」業務だ。

PR会社のサポートを受けながら広報を一から学び、どんどんのめり込んで行った。しかし東日本大震災により業界全体が大打撃を受ける。「広報業務ができなくなるかもしれない」。そんな思いから、独立へと至った。

味岡
富士山マガジンサービスは当時、まだベンチャー企業の規模。経営層の近くで仕事ができ、0から模索しながら広報という仕事を創っていくのが楽しかった。会社全体が一緒に売上を上げていこう、会社を大きくしようという風土も良かった。自分の得意とする“コミュニケーション”を武器に、売上を上げていくやりがいを感じていました。

情報発信を広く捉える「インタビューパック」

多様な経験を経てディアメディアを立ち上げた味岡氏。「他の会社ができることはうちがやらなくてもいいかな」と語る味岡氏が目指す情報発信の支援は、発信そのものを広く捉えたもの。

味岡
価格競争やスペック競争に陥らない、会社独自の価値をクライアントと一緒に見つけて発信する。単なる広報支援ではない深い伴走をしていきたいです。

味岡氏が今始めようとしているのが、「インタビューパック」のサービス。事業や経営者の方針、実際に働いている人の実感をインタビュー記事に興すことで、会社やサービスの独自性を浮き彫りにする情報発信を行う。このサービス開発を行ったのも、情報発信を広く捉えてクライアント企業と伴走してきたからこそ。

味岡
2019年から、ある大手企業様で採用を目的とした情報発信をしたいと相談がありました。長い時間をかけてヒアリングし、色々な提案をした中でインタビューを記事の依頼が年間50本ほどありました。先方がとりとめもなく話したことを整理し、パッケージとして伝える。文字として情報が可視化されるので、とても好評だったんです。我々はなぜそれをできるのか?と立ち返った時、会社の独自性を見出せるという自社の強みを再認識しました。

さらに採用媒体だけでなく、士業の方のインタビュー記事制作の機会がありました。弁護士や税理士は、差別化が難しい業界。熱い想いを持ちながらも自分の強みを打ち出せないジレンマを抱えている方との出会いが、サービス開発を決意するきっかけになりました。今後はより多くの業界に活きてくるサービスになっていくと思います。

インタビューという手法を取るのは、対話の中でしか引き出せないものがあるから。「1人で話すだけで独自性を発信できる人は本当に一握りの天才だけ」と味岡氏は強調する。様々な企業を支援してきたディアメディアだからこそ、企業の特徴や独自性が浮き彫りに見えてくる。あらゆる人々が発信者になった今、より価値になってくる箇所だ。

味岡
そもそも、同じ人間は存在しない。個性のある人たちが何人も集まって会社になっているので、独自性は必ずどの会社にも存在します。インタビューで心がけているのは、会社や創業者の歴史を紐解くこと。同じ経験をしている人は1人もいません。歴史にはその人の想いも絡んでくる。それを表現していくことが今回のインタビューパックの肝となる部分です。